魂で波に乗る

 

 

 

 

尊敬すべきサーファーがいる。

 

Kくんは2ヶ月に1度サーフする。なので特別サーフィンがうまいわけでもない。

 

これまでレッスンも受けてもらったり、ボードもオーダーしてもらった。

 

時々思い立ったかのように波乗りの疑問やサーフボードに関する質問の電話がかかり、よく話もした。

 

サーフィンへの思いが強く、その思いを消化するには2ヶ月に一度のサーフィンでは少なすぎた。

ここの海が好きすぎて、ここでしかサーフィンしない。彼の中でこの海でやるサーフィン以外はあまり意味を持たない。

 

なので時間とお金を作って2ヶ月に一度岡山からここに来てサーフする。

 

 

彼は病にかかった。

回数は減ったもののこの海に通い海のエネルギーを蓄え病と闘った。

彼の仲間が彼を海に連れ出し、大好きな海に入り回復のきっかけにする計画を立てた。

しかしその夢は叶うことがなかった。

病と闘いながらその夢を叶えることを信じ、朦朧とする意識の中で夢と現実の世界をさまよいながら、寝返りをうつ体力も失われた中で、夢の中で必死でパドリングしサーフィンをし、ベッドから転がり落ちた。

それが夢の中の世界での事なのかもしれないが、彼にとってきっとそれはリアルな現実の世界だった気がする。

 

朦朧とする意識の中でお母さんに彼は言った。「波乗りをしてた」と。

 

彼は魂で波に乗ったのだ。

 

人と競わない争わない、誰もいない場所をみつけ、自然の中で、静かに波を待ち、波に乗る。

 

彼の仲間と話をしている中で、ここの朝一の太陽や星、波の動きや景色を楽しんでいた事を知った。彼にとってそれを含めてサーフィンだったのだ。

この海で波に乗る事が彼にとって意味があったのだ。

 

彼が乗ってくれていたベーグルファン。のんびりゆったり楽しむために飯尾シェイパーにお願いしてできたモデル。彼にぴったりマッチしたサーフボードだ。

その彼のボードを僕が譲り受けた。

 

そのボードに乗るといつもよりも不思議と体の力が抜け、その加速感を楽しんでいる自分がいる。きっとこの感覚をKくんは楽しんでいたのだと思う。

 

 

「楽しむ」というサーフィンの一番大切な部分を忘れたときに、乗らせてもらうボードになると思う。

「楽しむ」というシンプルで当たり前なことのようで難しいこの気持ちを伝えられるようなレッスンをしていけるようになりたいと思った。

Kくんの事、僕の感じた事は、僕の心の中でしまっておけは良いもの。

 

ただ 彼が仮にこのブログを読んでもらえたとしたら、「みつさん、照れ臭せぇっすよ~」って照れながら喜んでくれるイメージが湧いてきたので、この記事を載せさせてもらいました。

先日、彼を追悼し彼の仲間と一緒にサーフィンさせてもらった。

しばらくの間みんなで彼のボードを乗り、彼の好きそうな場所をえらび波乗りを楽しんだ。

きっと一緒に楽しんでいたんじゃないかとおもう。

静かで謙虚な彼がよく使う感謝の言葉、「ありがてぇ」って彼が仲間に言っているような気がした。

 

 

Kくん.ありがとう。またいつか会うその日まで!

 

 

 

 

1年前にご家族を思いアップすることができなかった記事を、彼の命日にアップさせていただきました。